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LEG5

8月13日(水)プラチンブリ

LEG1と同じコースとは思えない激しさ
勝利を見据えた苛烈な後半戦が始まった

休息日から一夜明け、5日目の戦いが始まった。この日はプランチブリを起点とするループコース。199.13kmのSSは初日と全く同じルートが使われるため、誰もがその経験を活かして走ることができる。また、各チームとも休息日に十分な整備時間があり、SSまでのロードセクションも約50kmと短かったため、この日のスピードアタックに集中できる環境がしっかり整っていた。

だが、コースの様子は全く違っていた。特に初日のスタート順が早かったチームほどその落差に驚いていた。

「LEG1に比べてコースはかなり悪かったですね。穴がものすごく深くなっていて、同じダブルコーションの場所でも1.5倍くらい厳しくなっていました。轍も比べものにならないくらい深く、お腹をバンバン擦るし…でもこんな状況でもタイヤは前進力を生み出してくれるんだ! という驚きもありましたね」

こう語るのは25番手からスタートして7番手まで順位を上げた ♯105 Team MITSUBISHI RALLIART の 田口勝彦選手。この日はLEG3のサスペンショントラブルの影響で出走が遅く、前走車の多さに手を焼いていたが、ステディかつスムーズな走りでデイリートップの成績でゴールしていた。

ドライバーの田口選手も、保井隆宏選手とコンビを組んで4年目。昨年末タイで行ったナビゲーション訓練の成果も上々で、現地特有の環境にも慣れ、ふたりとも本来の力を発揮できるようになってきている。

コドライバーの保井選手も「ミスや迷いが減りましたね。昨年までの精度が60〜70%だとすると、今は85%くらいまで上がっています。とはいえ、まだ完璧ではないよ。このラリーは主催者とナビの根比べ。とにもかくにも根負けしないことが大切だと思っています」と語っている。

AXCRでは基本的に前日のタイムによって翌日のスターティングオーダーが決まっていく。そして実は、この出走順がタイムに大きく影響する。アスファルトのサーキットと違って土の路面で行われるラリーでは、後になればなるほど路面が悪化して走りづらくなり、スタックやコースアウトなどのリスクが増えてしまうからだ。そこに雨など天候の要素が加わると路面は激変し、同じコースとは思えないほど難度が高くなってしまう。

だからこそ選手はひとつでも上の順位を目指して走る。だからこそタイヤ1本の交換でも迅速にこなさなければならず、ミスコースは少しでも減らさなければならない。「もう1台前に居たらあそこをクリアできたのに!もっと速くゴールできたのに!」。そんな話をゴール後の選手達から聞くのはもう日常茶飯事と言っていい。

そしてこの日、2番手のタイムを叩き出したのは ♯101 TOYOTA GAZOO RACING THAILAND の Mana Pornsiricherd(タイ)/Kittisak Klinchan(タイ)組の トヨタ ハイラックスだ。続く3位は ♯103 ISUZU SUPHAN YOKOHAMA LIQUI MOLY RACING TEAM の Thongchai Klinkate(タイ)/ Banpoth Ampornmaha(タイ)組のいすゞ D-MAX。4位に ♯122 TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA の Tubagus Adhi Moerinsyahdi(インドネシア)/Jatuporn Burakitpachai(タイ)組のトヨタ フォーチュナーが続いた。

200km近いSSを延々走って、トップから4位までのタイム差は僅か3分11秒ほど。相変わらず、三菱、トヨタ、いすゞの3大メーカーが互いに一歩も譲らずに戦い続けている。

限界走行の代償か!? 金属疲労で倒れ征くマシン達

衝撃的だったのは前日まで総合2位につけていた♯102いすゞD-MAXのアクシデントだ。荷台の後端が地面に垂れ下がった姿でルート後半を徐行していたが、なんと車体後半のラダーフレームが折れ曲がってしまったという。2002年から取材している私にとっても前代未聞の出来事だった。

今年の前半戦は山岳路が多く、例年にも増して段差や穴が厳しかった。そしてガレ場やロック地形など、タイヤやマシン、ドライバーに厳しい地形が容赦なく続いた。そこで蓄積された金属疲労にフレームが耐えきれなくなり、ポッキリと逝ってしまったのだろう。確かに今年はランドクルーザー80のアクスルがあらぬ所から折れたり、同じくランドクルーザープラドのサスが前触れもなく崩壊したり…普通では考えられないことが次々に起きてきた。

2023年に総合優勝した♯107 GEOLANDAR takuma-gp FORTUNER の青木拓磨選手もこう語っている。
「スピードを出せばダメージが増え、スピードを落とせばいいタイムが得られない。と思えば例年のようなハイスピードの区間もある。どこでどう時間を縮め、どこでマシンのダメージを抑えるのか、その判断とメリハリを付けた走りがとても大切です。特に今年、我々はプライベートチームとして参戦しているので、マシンの故障を極力避ける走りに徹しながら上位を狙っています」

そう。ひと晩で故障箇所を新品にアセンブリー交換できるワークスと違い、プライベーターにはプライベーターの戦い方があるのだ。

こうした波乱含みの前半戦を、Team MITSUBISHI RALLIART の増岡 浩 総監督はこう振り返っている。

「前半・中盤戦は予想通り接戦でしたね。コースもマッドやロックなどバラエティーに富んでいてすごく面白いですよね。クルマにはキツイですけれど。そしてやっぱり、ライバルチームもものすごく力を付けてきていて、ドライバーの質もどんどん高くなってきていますね。アクロバティックでハイスピードもあって、スピード感のある、とてもいいレース展開になっていると思います」

さすがは増岡監督。多くの人にとっては、ダカールラリーのスピード感溢れる走りが印象に残っていると思うが、元を正せば急坂あり、難所ありの凹凸路で三菱ジープを駆り、跳んだり跳ねたりのクロスカントリー走行で慣らしていた増岡さん。3次元の地形を自ら楽しんで来ただけあって、凸凹にやや食傷気味になっているスピード系競技の関係者とは極悪路のAXCRを見る目が少し違っている。

「我々がトライトンに求めているものって、天候や路面を問わず、どんなところでも安定して走れて、なおかつ堅牢性があるっていうところなんです。だから、このクルマにまさしくうってつけの競技だって言えるんですよね」とコメントしていた。そして「残り2日間、我々が持てる力を皆でチャヤポン選手に集中し、最後まで表彰台を目指して全力でサポートしていきます」と語っていた。

明日のLEG6もLEG4同様、カンボジア国境の問題で既にキャンセルがアナウンスされている。残る2つのSSも、距離に換算すれば235kmほど。各チームがガチンコで争うことのできる区間も残り少なくなってきた。

だがAXCRは最後まで何が起きるか分からない。覚えているだろうか? 昨年も最終日前日に信じられないことが起きたことを。

2位に19分差という大きなリードを得て首位を独走していた Chayapon 選手のトライトンがゴール手前僅か2kmでまさかのエンジンストップ!! 優勝戦線から脱落し、翌最終日に TOYOTA GAZOO RACING THAILAND が "喉から手が出るほど" 欲していた「総合優勝」を捥ぎ取っている。

この時、勝利の美酒に酔ったのは Mana PORNSIRICHERD(タイ)/ Kittisak KLINCHAN(タイ)組だ。そして今年、四輪のチャンピオンナンバー ♯101 を付けた彼らのハイラックスが、総合順位でも ♯112 三菱トライトンを駆る Chayapon Yotha / Peerapong Sombutwong 組のすぐうしろ、2番手にしっかりと付けている。

果たして ♯101 と ♯112 の "因縁の戦い" はどのように決着するのか? あるいはトヨタと三菱がつばぜり合いを繰り広げている間に、いすゞ勢が漁夫の利を得て総合優勝に王手をかけるのか? 8月15日金曜日のレポートをお楽しみにしていただきたい。

(文/河村 大、写真/高橋 学)

Moto

ほぼ上位陣がまとまった序盤戦。競技とツーリズムの両面を満喫できる悦び

つかの間の休息日から開けた5日目、Leg.5の朝は少しゆったりとした時間の中進み始めていた。最初の出走者(Moto)は07:00にホテルをスタートし、大会1日目のLeg.1と同じSSのスタート地点へと向かう。

Leg.5のSSはLeg.1と同じコースを使用することになっている。平坦な大地、主に広大なプランテーションを舞台に作業道路や生活道路を右へ左へと細かくコマ図に印され、概ね赤や白い土の締まったフラットダートを砂塵を巻き上げながら駆け抜ける。ときに用水路や貯水池、大小の用水路など、コンクリートも含む人工的な地形から生まれる自然にとって「不自然」な障害も横切ることになる。

「なんだ、また同じルートか」と思いきや、そうでもないのがまた面白いところ。1度使ったルートはやる気満々のタイヤとラリースペックを擁したAuto数十台が本気の走りを存分に発揮したことにより、ルート路面は荒れ、うねりを増して変形した土は太陽の陽射しに焼かれてそのまま固まり、それがスコールや夜間の雷雨によって微妙に型を崩しながら数日前とは大きく異なった表情を見せている。

そんなステージに向かって最初にスタートのフラッグを受けたのは、Leg.3でトップへ躍り出た母国タイ王国出身の絶対王者、ジャクリット選手(#46/KTM 500E XC-F)だった。次いで日本のトップラリーストである池町選手(#16/HUSQVARNA FE350)、チームを共にするタイ王国出身のスマティ選手(#17/KTM 250XCW)、そしていつでも上位浮上の準備が出来ている泉本選手(#22/HUSQVARNA FE450)がしっとりとつけている。

この日の結果としては、上位3位まではスタート順位のまま、そこへ昨年優勝者である松本選手(#1/KTM 250 EXC-TPI)が4位、そのチームメイトである実力者の1人、山田選手(#2/HUSQVARNA FE450)が6位へ浮上し、泉本選手はアジアンラリー常連者に挟まれる形で5位となった。さらに7位には同じく実力者である砂川選手(#14/KTM 350 EXC-F)が浮上している。

ほかにもタイ王国やインドネシアの実力者たちがTOP10内に食い込んでおり、この日に限って言えば、いずれもペナルティがゼロで済んでいることから純粋にSSでの速さがそのままの順位となっている。もちろん、総合順位は日を追うごとに変わってくるので、リザルトは逐一チェックして欲しい。

戦っているのはもちろん上位陣だけではない。毎年海外の人から写真を求められる日本のサイドカーチーム、URALを駆る2組は、片方がSSスタート直後にエンジンの不具合が発生し、後続のAutoの進路を妨害するのを避けるため、もう一方のサイドカーに連れられてホテルへ戻ることになった。

上位陣のことばかり触れてしまうのは仕方のないことだが、バイク仲間で初参戦の若手2人組はと言えば、「ルールをまったく理解できていませんでした……」と、SS手前のRSで大きくタイムロスしたり、コマ図の通り進むことが出来なかったり、かなり出来の良い自作マップホルダーの調子が悪くなってしまったりなど、なんだかんだでまともにルートとタイムをコントロール出来ずに日々を終えている。

それに2日目にエンジントラブルでピストンリングが原因と思われる不調が完治せず、この日の出走でリタイアを判断したライダーもいる。

上位を争うベテランラリーストたちの動向には目が離せないが、一方で、それ以外のほぼ半数となる「概ね戦線離脱組」たちの心情も気になるところ。なぜなら高い費用と長い期間をアジアンラリーのために投じていながら、本来の競技に参加出来ていないのだから。

しかしそれは「全開で楽しんでいる」ことに変わりはないらしい。自分のマシンがダメになってリタイアとなっても、メカニックの腕を活かして他の参加者のフォローに徹する、走ってはいても競技に参加すらできないなら海外ツーリングを楽しめばいいなど、リザルトを見て「ココから上と下」という明確なラインが見えてくる。

休息日明けのLeg.5から、翌日のLeg.6もデイキャンセルとなっている。諸事情によりアジアンラリー史上稀に見るスケジュールとなっているが、競技はあとLeg.7とLeg.8の2日間が残されている。

参加者たちが望む競技と海外ツーリズムがこれほどまで顕著なことにも正直驚かされるが、ここまで大きな事故や怪我が無く進行していることも、過去を見るとまあ珍しいと言える。

残す競技2日間も大事無く全開でアジアンラリーを楽しむことが出来れば、それはもう言うこと無しだろう。

もはや日本よりも遥かに過ごしやすいタイ王国の夏を大好きなバイクで満喫できる悦び。それは是非、多くの人たちにも知ってもらいたいところだ。

(写真・文/田中善介)

Provisional Result SS5
Provisional Result LEG 1+2+3+5

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